夢日記267
喫茶店の看板がお手本のように割れて中身の電球が剥き出しになっている。瓦礫の山のうえに信楽焼が立っていて、数年前のニュースを思い出す。
僕と妹は崩壊した都市跡で放浪を続けていた。
地下街があったみたいだ、と僕は独りごつ。なにせ話したい相手はほとんど失語症のような状態で、俯きがちな表情の機微を窺い知ることすら難しいのだ。いつからこんな風になってしまったのだっけ(起きた後に思ってみれば、単純にもう長いこと会っていないので記憶が抜け落ちているのかも知れない)、そもそもこの世界だっていつからこんな風になっているのだっけ。
ぼんやりと思考を巡らせながら階段を降りきると、食糧のアテがありそうな部屋が見えた。窓枠に仄かに生活の痕跡がある。
忍び込んでみると中は雑然としており、奥のベッドに老婆が横たわっている。嫌気すら差さないほど見慣れた風景。食パンだけ盗んでさっさとずらかるつもりだった。
「トースト、トースト。」
覚えている限り妹の声ではなく、老婆の喉から絞りでた言葉だった。
「トースト。」
うわごとのように呟き続ける老婆をなんだか放っておけなくて、それから生存者を見かけたのも随分久しぶりなことで、トーストを作ってあげることにした。
それから何回もオーブンでパンを焼いたが、何故か僕のは端っこが崩れてしまう。徒らに食糧と体力だけが減っていくけど、それでいい気もした。
妹は結構上手で、一緒に老婆のもとへ配膳すると、2枚ともとても美味しそうに食べてくれて嬉しくなった。
終わり