絵、音楽

映画『ドロステのはてで僕ら』観てきた

皆さんは、自分の未来って知りたいですか。てか知ってますか。

僕は知らないし、知りたくもないですね。何故かと言うと、予測はできるとしても予知は絶対にできないからこそそこに感情や思考が生まれるから。

というのは半分で、もう半分は自分の未来とか将来ってやっぱり漠然とした不安が付き纏うじゃないですか。あんま考えたくないですよね、そんだけです。

 

ところで、ヨーロッパ企画って劇団知ってますか。知ってる前提で話進めていいですか。一応説明しますか。

上田誠って名前聞けばまあ聞き覚えのある方がいるかも。オタクの皆さん的には『四畳半神話大系』シリーズ構成、『夜は短し歩けよ乙女』脚本、『ペンギン・ハイウェイ』脚本辺りが馴染み深いはずです。要するに......あーシリーズ構成、シリーズ構成ね、シリーズ構成ってのは総作画監督の脚本版だと思っといてください。各話脚本もやってます。とにかく要するに森見登美彦と縁がある脚本家で、劇作家でもあって、そういう人が主宰している京都のすげー有名な演劇集団です。

その劇団が、映画を作ったんです。長編で。

分かります?上田誠を原案・脚本に起用して劇場大作が撮られたとか、キャストをヨーロッパ企画の劇団員で固めて変わった芝居の映画が撮られたとかじゃなくて、ほぼ劇団内完結で、低予算でありながら長編映画が撮られたんですよ。

企画からセット、キャスト、撮影方法に至るまで確かに理論上は低予算で実現可能ではある、けれどもこの劇団じゃなきゃ絶対実現できないアイデア(仕掛け)の一本勝負。面白くない訳がない。

しかもヨーロッパ企画って、まーあ徹底して喜劇を描くんですよ。ついでに、上田誠は物語を引っ張っていくSF的な仕掛けとして「時」の概念にすごく拘る。この辺については監督を本広克行が務めた名作『サマータイムマシン・ブルース』を観るのが手っ取り早いでしょう。プライムビデオにあるし、映画好きを自称する人間なら大抵観てるので話も共有しやすいですよ。あと地味に劇伴がHALFBYなので音楽オタクに観させても面白いかも。余談ですが本広克行、本作のパンフにがっつりコメント寄せてましたね。

話が逸れましたが、要するに僕が観ない訳がなかった訳です。

 

じゃあドロステ効果って知ってますか。これは全然知らない。なるほど。

ざっくり言えば鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に......みたいな、再帰的な視覚効果のやつ。

そんなに難しいことでも珍しいことでもなくて、インターネット配信の文化追っかけてる人なら時々目にするんじゃないかな。再帰の感覚を知りたいだけならテキストベースでも全然。「衒学的」とか「バズワード」みたいな言葉を知ってれば......まあそれはさておき。

 

ある日突然、なんでか知らないけどそこに2分の時差が発生して未来が見えちゃったらどうなるのか、っていう。導入としてはそういう映画です。

言って最初は"2分先の未来と対話ができる"ってだけで主人公を取り巻く仲間たちは大はしゃぎで、スクラッチの当たりの場所を過去の自分に教えるとかしょうもない手品を披露するとか、そんな他愛も無いことで盛り上がったりして。

ひとしきりやって、「でも2分先が分かる程度じゃこんなもんか~」と熱も冷めてきた頃に、頭の切れるキャラクターがドロステ効果を応用して、もっと先の未来まで見れることに気付いちゃう。このSF的な大仕掛けがやっぱり大きな見所のひとつ。

そんでまた大はしゃぎ。とある理由から未来を覗くことを厭う主人公を除いて。そんなに先まで見れるんなら、ってことで無邪気にも街へ繰り出していったりしちゃう。

ここまでの会話劇が本当にヨーロッパ企画らしくてすっごく楽しいんですよ。だいたいみんな明るくて無邪気で、キャラが濃いのなんのって。いやだからそれは演劇の文法だろ笑ってくらい大袈裟な演技がだんだんクセになってくる。往々にして、創作物ってこういう手癖的な部分にこそ大きな見所が宿ると思うんですよね。そうそうこういうの、こういうのが観たくてこの人たちの作品を観に来てるんだよ、みたいな。

 

さて、ここであまり気乗りせず単身でメインの舞台に居座り続けている主人公に急展開が訪れる。色んな意味で。

主人公も含め登場人物全員、奥の奥の奥の奥の...画面、すなわち2n分(nは任意の整数)後かの未来で何が起こっているのかなんてあんまり気にしてなかった訳ですが、理論上無限に未来が見えてしまう機構を生み出してしまった時点で、物語的にこれはもう何か良くないことが起きるに決まってる。なんかこう、時空の歪みが指数関数的に増大して、、、みたいな感じで。

 

案の定一気に息の詰まるような展開が顔を見せ始め、物語は佳境へと。

ここからは完全に重大なネタバレになるのでほぼ伏せますが、たぶん普通の映画だったらずっと息詰まりっぱなしの解決編がもうほんと笑えちゃうくらいにご都合主義で、泣けちゃうくらいにどこまでも喜劇で。

そしてなんやかんやあって大団円~......かと思いきや、幾つかの問題点は「まあ、時間が解決してくれるでしょ」的な感じで放置されて、案外素朴な感じでラストシーンを迎えるんですよね。個人的にこのラストシーンの会話が一番好きだった。

ほとんどのカットが長回しで撮られてるので、特に終盤は演者の疲れとか安心みたいなものがかなりダイレクトに伝わってくるんですよ。それがラストシーンの一言一句とだいたい共鳴してて、そんな状態から発せられる主人公の一言こそが本作の本質を鋭く捉えているように思えた。

 

 

未来は不安になるからあんまり目を向けたくなくて、何かしたいんだけど今の自分に何ができるのか分からなくて、ぼんやりと逡巡している僕らのような若者の在り方を肯定してくれる、優しくて良い映画でした。

科学的考証とかをやりだすとまあここおかしいだろって部分はあるっちゃあるんですけどそんなことどうでもよくて、「(例えば低予算みたいな)限られた条件下で良い作品を創るために、想いを伝えるために、自分ならどうするか」を考えることが創作の本質だと思ってるので、いち創作者としても凄く元気と希望を貰ったなあ。

ついでに一緒に観に行った友達と下北沢で一番美味いスープカレーを食べて、お互い翌日仕事あるのに終電まで飲んで帰りました。でもこういうのでいいんだよ。