映画『ドロステのはてで僕ら』観てきた
皆さんは、自分の未来って知りたいですか。てか知ってますか。
僕は知らないし、知りたくもないですね。何故かと言うと、予測はできるとしても予知は絶対にできないからこそそこに感情や思考が生まれるから。
というのは半分で、もう半分は自分の未来とか将来ってやっぱり漠然とした不安が付き纏うじゃないですか。あんま考えたくないですよね、そんだけです。
ところで、ヨーロッパ企画って劇団知ってますか。知ってる前提で話進めていいですか。一応説明しますか。
上田誠って名前聞けばまあ聞き覚えのある方がいるかも。オタクの皆さん的には『四畳半神話大系』シリーズ構成、『夜は短し歩けよ乙女』脚本、『ペンギン・ハイウェイ』脚本辺りが馴染み深いはずです。要するに......あーシリーズ構成、シリーズ構成ね、シリーズ構成ってのは総作画監督の脚本版だと思っといてください。各話脚本もやってます。とにかく要するに森見登美彦と縁がある脚本家で、劇作家でもあって、そういう人が主宰している京都のすげー有名な演劇集団です。
その劇団が、映画を作ったんです。長編で。
分かります?上田誠を原案・脚本に起用して劇場大作が撮られたとか、キャストをヨーロッパ企画の劇団員で固めて変わった芝居の映画が撮られたとかじゃなくて、ほぼ劇団内完結で、低予算でありながら長編映画が撮られたんですよ。
企画からセット、キャスト、撮影方法に至るまで確かに理論上は低予算で実現可能ではある、けれどもこの劇団じゃなきゃ絶対実現できないアイデア(仕掛け)の一本勝負。面白くない訳がない。
しかもヨーロッパ企画って、まーあ徹底して喜劇を描くんですよ。ついでに、上田誠は物語を引っ張っていくSF的な仕掛けとして「時」の概念にすごく拘る。この辺については監督を本広克行が務めた名作『サマータイムマシン・ブルース』を観るのが手っ取り早いでしょう。プライムビデオにあるし、映画好きを自称する人間なら大抵観てるので話も共有しやすいですよ。あと地味に劇伴がHALFBYなので音楽オタクに観させても面白いかも。余談ですが本広克行、本作のパンフにがっつりコメント寄せてましたね。
話が逸れましたが、要するに僕が観ない訳がなかった訳です。
じゃあドロステ効果って知ってますか。これは全然知らない。なるほど。
ざっくり言えば鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に映ってる反対側の鏡の中に......みたいな、再帰的な視覚効果のやつ。
そんなに難しいことでも珍しいことでもなくて、インターネット配信の文化追っかけてる人なら時々目にするんじゃないかな。再帰の感覚を知りたいだけならテキストベースでも全然。「衒学的」とか「バズワード」みたいな言葉を知ってれば......まあそれはさておき。
ある日突然、なんでか知らないけどそこに2分の時差が発生して未来が見えちゃったらどうなるのか、っていう。導入としてはそういう映画です。
言って最初は"2分先の未来と対話ができる"ってだけで主人公を取り巻く仲間たちは大はしゃぎで、スクラッチの当たりの場所を過去の自分に教えるとかしょうもない手品を披露するとか、そんな他愛も無いことで盛り上がったりして。
ひとしきりやって、「でも2分先が分かる程度じゃこんなもんか~」と熱も冷めてきた頃に、頭の切れるキャラクターがドロステ効果を応用して、もっと先の未来まで見れることに気付いちゃう。このSF的な大仕掛けがやっぱり大きな見所のひとつ。
そんでまた大はしゃぎ。とある理由から未来を覗くことを厭う主人公を除いて。そんなに先まで見れるんなら、ってことで無邪気にも街へ繰り出していったりしちゃう。
ここまでの会話劇が本当にヨーロッパ企画らしくてすっごく楽しいんですよ。だいたいみんな明るくて無邪気で、キャラが濃いのなんのって。いやだからそれは演劇の文法だろ笑ってくらい大袈裟な演技がだんだんクセになってくる。往々にして、創作物ってこういう手癖的な部分にこそ大きな見所が宿ると思うんですよね。そうそうこういうの、こういうのが観たくてこの人たちの作品を観に来てるんだよ、みたいな。
さて、ここであまり気乗りせず単身でメインの舞台に居座り続けている主人公に急展開が訪れる。色んな意味で。
主人公も含め登場人物全員、奥の奥の奥の奥の...画面、すなわち2n分(nは任意の整数)後かの未来で何が起こっているのかなんてあんまり気にしてなかった訳ですが、理論上無限に未来が見えてしまう機構を生み出してしまった時点で、物語的にこれはもう何か良くないことが起きるに決まってる。なんかこう、時空の歪みが指数関数的に増大して、、、みたいな感じで。
案の定一気に息の詰まるような展開が顔を見せ始め、物語は佳境へと。
ここからは完全に重大なネタバレになるのでほぼ伏せますが、たぶん普通の映画だったらずっと息詰まりっぱなしの解決編がもうほんと笑えちゃうくらいにご都合主義で、泣けちゃうくらいにどこまでも喜劇で。
そしてなんやかんやあって大団円~......かと思いきや、幾つかの問題点は「まあ、時間が解決してくれるでしょ」的な感じで放置されて、案外素朴な感じでラストシーンを迎えるんですよね。個人的にこのラストシーンの会話が一番好きだった。
ほとんどのカットが長回しで撮られてるので、特に終盤は演者の疲れとか安心みたいなものがかなりダイレクトに伝わってくるんですよ。それがラストシーンの一言一句とだいたい共鳴してて、そんな状態から発せられる主人公の一言こそが本作の本質を鋭く捉えているように思えた。
未来は不安になるからあんまり目を向けたくなくて、何かしたいんだけど今の自分に何ができるのか分からなくて、ぼんやりと逡巡している僕らのような若者の在り方を肯定してくれる、優しくて良い映画でした。
科学的考証とかをやりだすとまあここおかしいだろって部分はあるっちゃあるんですけどそんなことどうでもよくて、「(例えば低予算みたいな)限られた条件下で良い作品を創るために、想いを伝えるために、自分ならどうするか」を考えることが創作の本質だと思ってるので、いち創作者としても凄く元気と希望を貰ったなあ。
ついでに一緒に観に行った友達と下北沢で一番美味いスープカレーを食べて、お互い翌日仕事あるのに終電まで飲んで帰りました。でもこういうのでいいんだよ。
終
写真記録 0828と日記
ここやべー。鶴見川と矢上川の合流地点。
夕方が一番良いらしいのでまた来たい。
多摩川の花火、今年も見れなかったね
そんなことある?
「あっ!プロデューサーさん!」
「なんだ、あさひ」
「カニがいるんすよ!暗いから、ライト点けてほしいっす!」
「こんなところにカニがいる訳ないだろ」
「でもいるんすよ〜!早くライト点けるっす〜!」
とか言って友達とギャーギャーはしゃぎながら撮ったので、手ブレがひどい。
輝きの向こう側へ...(全然知らずにいつも通ってたんですけど、ここからもうちょっと先に進むとTHE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!の聖地です)
<日記>
阿部厳一朗がさやかちゃんの版権を描いたと聞き駆け足でメガミマガジン10月号を買いに行った、というのはどんなに脚色を粧しても友達と待ち合わせをした昨日の話で、それから12時間喋って200km自転車漕いだ。
僕がまともに6時台の外気を浴びるなんてのはまったく数年ぶりのことで、木漏れ日が一々眩しい朝の公園は、人と水と鳥と草木の息吹でこんなにも暖かいのだと知った。
さっき起きて、今から川崎チネチッタに劇場版SHIROBAKOの再上映を観に行こうと思ってたんだが、サイト見たら満席だったので二度寝る。
写真記録 0814(キャプション付き)
FUJIFILM X-T2, XF35mm F1.4
箱根行ってきた。箱根って何撮ればいいんだろうと思ってたけど、意外と食い出がある。撮る対象を見つける能力が上がってきたということでもあるのかも知れない。
旅行が終わって早速会社の先輩の家に行って撮った写真を添削してもらうと、概ね好評だったので良しとした。お世辞でも良くない物に良いとは言わない先輩なので。
ただ、全体を通して中距離単焦点レンズの弱点が目立った。のは撮っていてずっと感じていたので、理論の部分が氷解してすっきりした。「今度アキバ行って、広角レンズ探しやな」という話に。
取り急ぎ、18mmのF2とかかなー。性能の割にずば抜けて安いし。
これとか色と構図自体は良いのに、明らかに画角足りてなかったよね。ちなみにこれでも頑張って広く取った方で、35mmでこれ以上画角取ろうとすると線路から撮影することになって死にます。
山田尚子が撮りそうなレイアウト。今回撮った中で一番気に入っている。
「良いね~~!...(凝視)あーでもここ飛んじゃってるから、もう少し絞っても良かったかも」
「いや、これ実は結構色々試した結果なんですよ。構図はここ歩いた瞬間に決まってたんですけど、夏の茹だるような空気感を出すために水の温度感というか、粘度を練りたくて。。。なんというか、要するに見たまんまの視覚情報のみを写真に落とし込むんじゃなくて、その時の五感全てを表現することを目指したいんですよ、たぶん僕は」
「なるほど、でもそれは険しい道になりそうやな~。普通に慣れるまででも1年くらいはかかるからゆっくりでいいと思うよ」
「これも気に入ってはいるんですけど、画角もっと欲しかったんですよね」
「いや...!(凝視)この写真はこれで良い気がする。まあでも広角にすれば上に空間取れるから実際やっぱ広角かな」
改めてみるとフィルムっぽい趣きがあって良い気がする。
露骨に俺が好きそうなごちゃっとした都市風景。
これも広角を試したいところではあるんだけど、35mm(実質的には52.5mmくらい)だからこそ大通りの対岸からちょうどこの画角が取れたのであって、例えば画角広く取ってみて気に入らなくてこのくらいの画角を試したくなったとき、車通りの多い往来の中央辺りに立たなければならないため死にます。単焦点に拘りたいなら最低2種類はレンズ持ち歩くべきってことなのかも知れない。
こういうのはF1.4で被写界深度ガッと浅くできるレンズの強みが出てる。
でもこれもうちょっと絞った方がいいね。紫陽花の白が飛び過ぎてる。
白の扱いって本当に難しいので、植物はみんなこれくらいの色はついててほしい。まあそう思ったからこそ甲羅を獲得したのかも知れん。連中は俺に撮られるために、陸上で自然淘汰されてきた訳じゃない。。。。
水が好きで、よく撮ります。
これは山道にあった全然用途が分からない水。
以上。
ビューティフル・ドリーマー(you'll see the shiny up rainbow with me!)
"and your memories will be a lot of melodies" なんて軽い冗談だった、いつも答えは227の項目!
うそ嘘。かつてこんな詞を書いて、この世界の真理も神秘も、僕の気持ちも君の気持ちも、夢の在り処でさえも全部分かった瞬間がありまして。
『ぶらどらぶ』と『ビューティフル・ドリーマー』で、押井守は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を再演します。詳しくは後述。監督の本広克行にとっては、大学のサークルの等身大を描いた傑作『サマータイムマシン・ブルース』の再演になることでしょう。
それってすっごく面白そうじゃないですか。楽しみじゃないですか。嬉しいじゃないですか。ショウ・マスト・ゴー・オンなんですよ。神様がまた明日を創るなら、終わらない旅の幕は永遠に降ろさせないんですよ!!
それで、この記事を書きたかったのは、主演の小川紗良のコメントを読んで、その『rainbow』みに衝撃を受けたからです。以下引用。
"大学時代、サークルで映画を撮っていた私にとっては、あの頃を追体験するような日々でした。映画サークルって、色々な珍事件が起きるんですよ。データが飛んだり、お金が尽きたり、機材が壊れたり、しょうもないことで喧嘩したり、色恋沙汰がもつれたり。それでも映画を撮りたい気持ちは突っ走って、かぐや姫もドン引きな無理難題を言ってみたり。部室には余計なものがいっぱいあって、3留くらいしてる先輩が昼寝してる。”伝説のOB”はいつまでもサークルにはびこって、ああだこうだと言ってくる。本当に、映画サークルって変。
それでも、サークル活動や映画撮影の在り方が変わり果ててしまった今となっては、あの変な日々も懐かしく思えたり。2020年、思いがけずこの映画は「癒し」になるかもしれません。
人と人との距離の近さが生む珍事件たちに、ぜひ心をふっと緩ませてみてください。
夢みる人、そしてかつて夢みた人に、届きますように。"
"and your memories will be a lot of melodies, you'll see the shiny up rainbow with little smile" なんだよなあ。。。。。。分かりますか?皆さん。"and your memories will be a lot of melodies, you'll see the shiny up rainbow with little smile" なんですよ、要するに!!僕らの住むこの世界では。
そもそも文体が僕と近過ぎてびっくりしますね。たぶん摂取してきた創作物や人間の心にかなり重なる部分があるんだと思います。
さて、時は遡り、押井守がなんかしでかすらしい、と映研出身の友達が凄く嬉しそうにこの記事のURLを送ってきたんですよ。
言うまでもなく『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のセルフオマージュが込められたこのタイトル、やはり柳沼和良による同様の衝動的行為(アニメ『ネト充のススメ』最終話サブタイトル『月夜の晩に』)を思い出しますよね。思い出しませんか?思い出しませんか......。でもオタクなら『月夜の晩に』、『月夜の晩に2』、それから『不思議なホタルの物語原画集』くらいは持っててもいいんじゃないかなー、ってちょっと思いますよ。
まあいいや。要は再演です、再演なんですよ。全部。
強い衝動、強い感動、強い夢、強い気持ち、強い愛、みたいな大切なものは、何遍繰り返し擦って伝えたっていいんですよ、本来。
これはどうしても創る側に立ってみないと分からないことだと言わせてほしいんですけど、まあどれだけ心を砕いて言葉を尽くしたって、一撃で受け取り手全員に伝わることって絶対ないんですよ。悲しいけど、無論仕方ない。だって娯楽であるのも一面の真実だから。
だからこそ例えば邦ロックの文脈では"似たような曲調"とか"似たような歌詞"が乱造されるんですよ。それはぜんっぜん悪いことじゃなくて、むしろ擦られ過ぎた受け取り手が飽きるくらいで丁度いい。その時ようやく、僕らは世界のかたちを変える魔法の詠唱を止めてもいいんです。
ただ、表現媒体としてのコストが低い音楽だからこそこの方策は実現できたけど、アニメ史においては本当に限られた数人の監督にしか許されなかった。
でももう、いいんじゃないかって。あらゆるアニメ表現がやり尽くされた今、ロートルクリエイターの夢を、最後まで繰り返させてあげてもいいんじゃないかって、たぶんそういう流れなんですよ。
『ぶらどらぶ』と『ビューティフル・ドリーマー』で、押井守は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を再演します。監督の本広克行にとっては、大学のサークルの等身大を描いた傑作『サマータイムマシン・ブルース』の再演になることでしょう。
それってすっごく面白そうじゃないですか。楽しみじゃないですか。嬉しいじゃないですか。ショウ・マスト・ゴー・オンなんですよ。神様がまた明日を創るなら、終わらない旅の幕は永遠に降ろさせないんですよ!!
大切なことだから、2回言いました。2回言いましたよ。
でも要するにこれくらいが丁度いいんだよってことです。
37世紀の夏蜜柑 / 君の居ない材木座海岸にて
推定25時49分、僕たちが埋めにきた夏蜜柑は、あっけなく漂着鯨の胃に入った。たぶん。何せそれはフレンチポップのように甘苦く、彗星のように一瞬で世界が遠くへ消え去っていったものだから、よく覚えていないのだ。
こないだ近所の墓地でぼんやりしてたら、松の木が風に揺れて音を立てていた。
川崎のほとんど意図的なイルミネーションとも言える工業地帯。
名前も無い川に民家から延びて架かる短い桟橋と停泊する舟。
鶴見線国道駅から少し南にあるコインランドリーの軒先に佇むビデオスロットのレトロ筐体。
ヨルガオが咲き乱れる夜の丘に凪ぐ青白い光と、それに手を伸ばす君の笑顔に見惚れた。
思い出すのはそんな些末なことばかりだけれど、そのどれもが一粒の音のかたまりとなって回生していく。未練は無く、幸せだけが死を包むと思っていたけれど、堰を切ったように頬を伝う涙の感触を覚えて、僕は少しだけ後悔し始めていた。
○
茹だるような空気にあてられたとしか言い様が無い。その時、ハレとケの境界を跨ぐ感覚を、初めてなのにはっきりと覚えた。横顔を照らす室内灯が妙に眩しい。とりあえず冷房を焚いてカーステレオで気を紛らわしながら、僕と共犯者は後処理に困っていた。FMヨコハマはいつだって本当にセンスが悪い。
「漂着鯨って見たことある?」
彼女は藪から棒にそう言った。聞けば、どうやら由比ガ浜以東逗子以西あたりのどこかの海岸に漂着鯨が出たという情報がSNSに流れているらしい。普段SNSを嫌う僕でも情報の即時性は認めざるを得ない部分があるが、手掛かりにするには情報の数が少な過ぎた。
まあ、でも。
「ないよ。じゃあとりあえず鎌倉あたりに目的地セットして」
ここからなら大した距離じゃないし、足もある。しらみつぶしに探せば見つかるだろう。
漂着鯨には予てから興味があり、調べたことがあった。"寄り鯨"とも呼ばれ、古くは信仰の対象でもあったらしい。そもそも鯨は非常に知能が高いことで知られ、"ソング"と呼ばれる音波で人間のようにコミュニケーションを取る事ができる。安部公房は漂着鯨を"クジラの集団自殺"と結論付けたほどであり、そこまでくるとなんとなく人智を超えた存在である気もしてくる。
「その御前で、今回の件を片付けられたらそれはどんなにか......」
僕はそう独りごつ。
「うん......。そうだね」
多摩川沿いを走る車窓の外を眺めながら、彼女が小さく相槌をうった。
暗渠に溶け込む月明かりにばかり手を引かれてしまう僕たちにとって、都市の灯りはいつだって冷たく刺さる。
○
『ETCカードが、挿入されていません』
「暑ち~」
丑三つ時も近い材木座海岸に人影はなく、風も吹いていなかった。星明かりと生ぬるい感触だけが、身体にまとわりついて離れない。
事を済ませた僕らは、帰ろうとしてエンジンを点けた。スコップを握りしめ続けて力の入らなくなった腕を、だらりとハンドルに預けたその瞬間だった。
ほぼ無音に近い轟音が鳴り響き、視界は月の裏側みたいな完全な空白で満たされた。
自分が生きた証も含めて、この世界には何も残らないのだと知った。
話は冒頭に戻る。これは死んだ後に思い出したのだが、腐敗した漂着鯨の死体内部にはメタンガスが蓄積され、限界まで膨張した結果、爆発事故を起こすことがあるらしい。
でも、その近くにいた人が死んだ事例は見たことがなかったなあ。これまでのことも、今日のことも、やっぱりぜんぶ神の思し召しだったのかも知れないね、って君が笑った気がした。
2020.6.19
-----------怪文書ここまで-----------
以下、2020年上半期邦楽ポップ・ロックシーン個人的10選です。
怪文書書くのでだいぶ疲れちゃったのであとの文章はかなりテキトーです。
https://www.youtube.com/watch?v=iEREvuVFqe0
いきなり大仰なことを言ってしまうと、2020年代のうちにこれを超えるポップスは現れないと思っています。究極的には、人間って"話したい"んですよ。嬉しいことや悲しいことがあったら誰かと話したいし、新しく知ったことがあったら誰かと語りたい。高度な文化を持つ動物として人間のレベルを引き上げたとき、最も根源的な欲求はこれです。お喋りは続くんですよ、永遠に。それをここまでの解像度で表現されてしまったら、もう超えようがないんですよ物理的に。
さて、田淵智也とパスピエの仲が良いことは邦ロックファンには予てから知られていたことですが、まさかこんな形でコラボを果たすとは夢にも思ってなかったですよね。その1です。
田淵のメロディなのに、大胡田なつきの詞がとんでもない求心力を持ってて、なんかもうDIALOGUE+の子たちも恐らく大胡田なつきが付けたと思われる仮歌に引っ張られまくってるんですよ、歌い方が。この事実は物書きにとってこれ以上ないくらいの光だと思ってます。中山真斗による編曲も、これ曲名がまあたぶんフリッパーズ・ギターの『カメラ!カメラ!カメラ!』のオマージュじゃないですか。だからこのトイポップ/ミクスチャー/ファンク的なアレンジって、たぶんネオ渋谷系の文脈(と言うかずばり言ってしまうとPlus-Tech Squeeze Box)を意識してるんじゃないかなー、と。全てが噛み合った完璧な合作ですね。
『DREAMY-LOGUE』そのものが名盤だったことは言うまでもないでしょう。アニソン周りのクリエイターたちの圧倒的な熱量を感じました。余談ですが、もしあの中でユニゾンにセルフカバーして欲しいものがあるとしたら『パジャマdeパーティー』ですね。
鬼頭明里『23時の春雷少女』
作詞:田淵智也 作曲:田淵智也 編曲:成田ハネダ, やしきん
https://www.youtube.com/watch?v=fUEhHQvLViE
田淵智也とパスピエの仲が良いことは邦ロックファンには予てから知られていたことですが、まさかこんな形でコラボを果たすとは夢にも思ってなかったですよね。その2です。
イントロからいきなりパスピエでしかなく、田淵作曲であることを一瞬忘れました。しかも、最近のパスピエの音楽性って『電波ジャック』の頃のようなプログレ色かなり強めのポップ・ロックでもなく『七色の少年』の頃のようなプログレと大衆ポップ・ロックの自然な融合を目指したものでもなく、もっともっと抽象的なものに変わってきているんですけど、成田ハネダは今回の編曲にあたって『七色の少年』くらいの感じが望ましい、と判断したっぽくて、ほんとに大正解だと思ってます。
そして、ここまでの編曲をしてるのにそれでもなお田淵の曲だってのが本当に凄い。作曲面は『ギミー!レボリューション』を彷彿とさせますね。今まで同曲に一番近いのは内田真礼の『Smiling Spiral』だと思ってたんですけど、『23時の春雷少女』はそれを超えてきました。ただ、『ギミー!レボリューション』とは違ってタイアップが付いてないからこそできる自由さもあって、それが詞に凄く反映されてるんですよね。これでもかってくらいに田淵が本当にやりたい日本語表現が詰め込まれまくってて、それが鬼頭明里の声ともすごく合っているので聴いててずっとワクワクしてくる。
シャイニーカラーズ『シャイノグラフィ』
https://www.youtube.com/watch?v=2QCNRUoDb6s
結構意見分かれてるっぽいんですけど、やっぱりこれはノクチルを強く意識して創られた曲だと僕は思うんですよね。
ノクチルを象徴するキーワードである「透明感」には、決してキラキラした意味のみが込められている訳ではないのだと思う 浅倉透も、樋口円香も、市川雛菜も、福丸小糸も、いつ目の前から忽然と姿を消しても全く不思議でない儚さの塊みたいな存在なんだ シャイノグラフィが持つ勇敢さと輝きの裏には、この星の速度が瞬きを越えてそこに確かに存在していたはずの光の渦もなんもかも置き去りにしていってしまうような、そういう圧倒的な虚しさがある
でもその虚しさこそが一瞬の煌めきを最大限に増幅させるアンプリファイアとして機能する
それが本当に良い。。良いんですよ。。。。。。。。
長谷川白紙『シー・チェンジ』
作詞:長谷川白紙 作曲:長谷川白紙 編曲:長谷川白紙
https://www.youtube.com/watch?v=Mog5DDWLDdc
これはいつも言ってることですが、長谷川白紙の音楽の有機性は今の邦楽界じゃダントツです。ただ、これまではそれでも割と理知性とか演算性にこだわってきていた気がするんですよね。それを『シー・チェンジ』では見事に崩して新たな表現の幅を生み出した。生物的に進化し続けています、この人は。
アルバム『夢の骨が襲いかかる!』は暫定今年一の名盤だと思っています。このコンセプトで、この曲群で、このアレンジで全部許可通してくれる辺り邦楽界もまだまだ全然捨てたもんじゃないよっていう確かな証明です。『LOVEずっきゅん』や『光のロック』がこうなるとは思わんやん。凄過ぎる。
PENGUIN RESEARCH『キリフダ』
作詞:堀江晶太 作曲:堀江晶太 編曲:堀江晶太, PENGUIN RESEARCH
https://www.youtube.com/watch?v=Kb3ZA4zmMdg
アニメ『シャドウバース』OP。
キッズ向けアニメのOPなのでAメロとサビは普通に王道の作編曲なんですけど、Bメロで普通にビビる。
あと、一応シャドバというかカードゲーム的な要素を歌詞に散りばめてはいるんですけど、これもういつもの堀江晶太自身の感情爆発ソングやん、っていう。Bメロ後半からサビ頭にかけてがマジで感情大爆発してる。それが凄く好きです。
fhána『星をあつめて』
https://www.youtube.com/watch?v=bHb9NlRO4V4
アニメ映画『劇場版 SHIROBAKO』主題歌。
特に詞がfhánaの曲の中で一番好きです。魔法の靴を履き潰して、不意に降りる奇跡を祈りながら働くんですよ。こんなフレーズ自分じゃ絶対思い付かない。何かに本気で打ち込んだことのある人全員に凄く響く歌だと思います。
ほんとは劇中歌の『仕方ないのでやれやれ』も同じくらい大好きなんですけど、まだリリースされてないので下半期ってことで。。いや、下半期にサントラがリリースされるのかどうかも分からん状況ですけど。。。
TrySail『ごまかし』
https://www.youtube.com/watch?v=aJzOm46_MlI
アニメ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』OP。
てっきり『かかわり』みたいな感じで全編暗めで来ると思ってたので、イントロとAメロの明るさにはめちゃくちゃ心打たれましたね。やっぱりまどマギシリーズって、蒼樹うめ原案のキャラの可愛さがあってこそだと思ってるんで。
サビ冒頭の詞も凄く好きで、これって"涙"や"迷い"を本当の意味で知っている人じゃないと出てこない表現なんですよ。渡辺翔が最近よくやる、16分音符で無理やり譜割りを詰めるやり方はあんまり好きじゃないんですけどこれは良いかなって思えるくらいです。
湯浅篤による編曲もめちゃくちゃ力が入っていて、アニメ映像の力もあって凄く良いOPだったんじゃないかと思います。シャフト系アニメーターってdavid productionとかClover Worksとかに散り散りになっちゃったイメージあるけど、まだまだ元請いけるやん、って思わせてくれました。特に山村あたりの止め絵に強い人による作監修正は相当頑張ってたんじゃないかと。まあ本編の後半相当危うかったけど......正式版最終話のさやかちゃんが死ぬ程カッコ良かったので僕は満足です。
EDの作詞作曲は毛蟹なんですけど、編曲をOPとEDで揃えて作品の世界観を強固にしているのも良かったですね。
神聖かまってちゃん『ゲーム実況してる女の子』(アルバム『児童カルテ』ver.)
作詞:の子 作曲:の子 編曲:神聖かまってちゃん
https://www.youtube.com/watch?v=085XNmCF6uI
の子の音楽の本質って大抵はエモとノスタルジーにあるんですけど、の子のノスタルジーってただのノスタルジーじゃないんですよ。なんていうか、自身の内面と外面の乖離を常に見据えていて、まだ自身の中に残っている幼児性と抗いようのない老いとの闘いで生まれるノスタルジーなんですよね。それが特に強く反映されている曲だと思います。
もうなんかね、流石に僕も25歳になっちまったと九十九里浜に叫んでしまった訳で、歌詞の全てが自身の境遇に刺さりまくる訳ですよね。中学1年生の頃からずっとゲーム実況が大好きだったので。
あと、『友だちを殺してまで。』の頃は本人も述べている通り、明らかにyoutubeとかで公開した音源と商業音源では後者の方が"魂の質"がめちゃくちゃ低かったんですけど、最近はほんとそういうのなくなってきましたね。アルバム『児童カルテ』は、ぜんぶ魂はきちんと据え置きのまま、サウンドが商業用にリファインされてました。
粗品『ビームが撃てたらいいのに』
https://www.youtube.com/watch?v=x_yvdRXW82I
今話題の、お笑いコンビ・霜降り明星の粗品が放つボカロオリジナル曲シリーズ第1作目ですね。2020/6/19現在3作出てますけど、やっぱりこれが一番好きです。
とは言え編曲とミックスがめちゃくちゃ拙いんですよね。音数少ないのに潰れまくってて凄く聴きにくい。それが決して良いことだとは思わないんですけど、"それでも伝えたいことがあるから一人で全部創る"っていうエネルギーは本当に大事なんですよね。そういうのを思い出させてくれます。
"ビームが撃てたらいいのに"っていうのは、要するに"言いたいことが言えたらいいのに"ってことだと思うんです。"フリの長い神話"、"9853512秒前"に代表されるように、使っている言葉のセンスもめちゃくちゃ光ってて好きです。
ピノキオピーによるリミックスも大きな話題を呼びましたね。
さユり『葵橋』
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/88216
アニメ『イエスタデイをうたって』ED2。ヒロイン・ハルの心象がすごくよく表れていて好きです。江口亮による編曲もしっかりハマってます。
最初は冬目景作品を動画工房が......?とちょっと謎だったんですけど、蓋を開けてみれば動画工房にしか作れない作品でしたね。要するに丁寧で誠実な日常芝居作画のナレッジがきちんと蓄積されてる元請じゃないと、冬目景の描く空気感は再現できないんですよ。濱口明や小林恵祐といったスターアニメーターたちもガッツリ参加で凄く良い作品になっていると思います。最終回が楽しみですね。
ところで、パッと見では岸田感あるキャラデだなーと思ったんですよね。谷口の素の絵ってあんまり知らないんですけど、叛逆からマギレコを経て岸田感が乗り移ったのかな、とか勝手に系譜を想像してます。
以上。