絵、音楽

電離層の彼方へ(高架下の怪文書と、今年の音楽)

[目次]

 

怪文書

高架下の本質なんてもうその語義の表層に散らばるノスタルジーをひとつひとつ撫でていくくらいのもので、今やめっきり綺麗に整えられているんですよ、実際。

結局のところ暗渠に溶け込む月明かりに手を引かれるような僕たちに出来ることと言えば、精々、アンクルカットにオーバーサイズ気味な既製品のプリントTシャツを合わせつつ薄手のジャケットと真っ白なスタンスミスで身を包装することにより程々のシルエットを作って、ボロの自転車で深夜の国道を駆けることぐらい。

15号は良いですよ、言うまでもなく。放射線19号と言った方が伝わりやすい方もいるでしょうか。大田区民的には第一京浜。その辺の認識の仕方は皆さんの土地勘にお任せするとして、割と興味がある。誰かアンケートでも採ってないのかな。

ともかく、こんな季節でも、多摩川を越えて、鶴見川を越えて、帷子川さえも超える頃にはけっこう身体が火照っているものでして、

川崎のほとんど意図的なイルミネーションとも言える工業地帯。

名前も無い川に民家から延びて架かる短い桟橋と停泊する舟。

鶴見線国道駅から少し南にあるコインランドリーの軒先に佇むビデオスロットのレトロ筐体。

どれも僕にとっての日常的な日本の都市風景の象徴で、たまらなく愛おしい。

そんなことを考えているうちに京急本線へぶつかり、冒頭の話に戻る訳です。かつてその沿線を踏切だらけにしていた京急本線は、2010年頃に提起した高架化計画を順調に遂行し、今や全線とはいかないまでもまああまり文句を言われない程度には高架化を達成しました。

いま僕がこの文章をしたためているのは、京急黄金町駅付近の高架下です。三か月程前に諸事情あって横浜市内で引越しをしたのですが、かつての暮らしでは家の外でゆっくり思索に耽りたいときによくこの高架下にはお世話になったよなあ、と思って、今でもときどきこうして訪れるんですよね。何せ今の住居と同じ市内なので、自転車さえあれば以前の生活圏内にはいくらでも足を延ばせてしまう。

それにしたってこの高架下の整備しきられていること!綺麗なアトリエと、その前に併設された謎の綺麗な階段広場。まあ誰もいなくて落ち着くんでいいっちゃいいんですけどね、結論から言うと、なんかもっとこう、うだつの上がらない人間が気軽に雨宿りできるような空間であってほしいんですよ。

今って、都市計画に依ってはすごく綺麗な保育園とかさえあったりするじゃないですか、高架下に。無論子供たちの笑顔を守るための場所の確保は人類にとっての何よりの急務ですが、僕の求める高架下像との乖離が年々激しくなっていっていることも確かなんですよね。繰り返しになりますが、結局のところ暗渠に溶け込む月明かりに手を引かれるような僕たちに出来ることと言えば、近所のジャンクショップに何故か置いてあるコミックLOのバックナンバーを集めてみるくらいが精一杯でしょう。

でもそのくらいが一番身の丈に合っているんだから良いんじゃないかな、とも思うのです。20代前半もあと数か月で終わってしまうけど、今更わたわたしたって仕方が無い。きちんと人と向き合っていれば身の丈に合った面白い出来事はいくらでも起こってくれるので、過去の自分に感謝しましょう。

 

じき、ドレッドノート級の凪ぎが来ます。

明後日に会えたら、話そうかな。

 

 

音楽と創作と僕/2019

ハイライト

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音楽に限らず、創作の敷居がどんどん低くなって若手の台頭は激しさを増す一方である昨今ですが、敢えて今年を総括するとしたら"ベテラン復権の年"でもあったんじゃないかな、と思います。

小沢健二『So kakkoii 宇宙』の存在が何よりの象徴でしょう。2017年、CDシングルとしては実に19年ぶりの新譜『流動体について』がリリースされ、表題曲が初めてMステで演奏されたとき、誰かが「これは単なる"渋谷系のスターの復活"に全く留まらない、'10年代後半の音楽だ」と言っていたことを未だに鮮明に覚えています。小沢健二はその後もSEKAI NO OWARIとの共作『フクロウの声が聞こえる』や『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』といったブレイクスルー的なシングルを次々とリリースし、今を生きる若者たちの心に淀み無く溶け込んでいきます。そして今年10月に『So kakkoii 宇宙』から先行リリースされたシングル『彗星』で、本当に驚くべきことに、彼は"あふれる愛がやってくる その謎について考えてる"と述べました。『愛し愛されて生きるのさ』『ラブリー』『強い気持ち・強い愛』などの代表曲が示すように「愛」について散々考えアウトプットを繰り返してきた小沢健二ですらまだ「愛」が齎す「謎」について考える余地があるということです。それほどに息子の凛音くんの存在は強い。だって、あんな美しいMVこの世に存在しないですよ。『彗星』のMVの小沢健二と小沢凛音の姿を見ていると、下町の何気ない食堂から立ち上る湯気が原風景たり得ていることが嬉しくて堪らないし、大人になれた大人ってなんて輝かしくて愛おしくさえもあるのだろうと感じるし、これはたとえ摩耗されゆくものだとしてもこの宇宙に確かに愛と無邪気さが存在していた証拠だ、とほんとに強く強く思うのです。

おっと、勿論オザケンのことばかりがハイライトではないですよ。邦ロックに限った話をすれば、サカナクションだって6年ぶりにオリジナル・アルバムをリリースし、『忘れられないの』を中心として大きな話題を呼びました。ニューウェーブリバイバルでありながら、あれもひとつの'10年代後半以降の新しい音楽の形です。"ベテラン"に焦点をあてると、真部修一の創作意欲も留まるところを知りません。『SUPER MUSIC』のリリースを境に打ち込み系に傾倒し始めていて、初期の相対性理論タルトタタンでやっていた真部修一バンドサウンドとはまた違う一面が見えてきそうで、今後がとても楽しみです。そうそう、パスピエが初期のプログレ×ポップスに戻ってきたのも印象的でしたね。『七色の少年』から始まった成田ハネダの圧倒的な作曲地力に依るストレート寄りな明るいポップス群は、どうやら『あかつき』のリリース辺りでひと息ついたようです。

アニソン文化にも、冒頭で提示した主張は適用されます。『輪!Moon!dass!cry!』や『flash』といった前衛的なアニソンに支持が集まっていっている中、茅原実里中島愛、そして坂本真綾といったベテランアニソン歌手たちも圧倒的な存在感を発揮しました。

勿論インターネット音楽にも。長谷川白紙や電ǂ鯨の強烈な個性には度肝を抜かれてばかりで、Eveなんかはもう川村元気がプロデューサーについちゃってるくらいですが、ピノキオピーにはいつだって僕の全てを見透かされてしまいますね。僕より年の功を積んでいるのは勿論のことですが、"ベテラン"は年功だけでなく経験や精神の研鑽も積んでいるからこそベテランたり得るのだと強く意識させられます。ここまで書いて今更なのですが、長谷川白紙やEveはもうインターネット音楽の文脈ではなく邦ロックの文脈に含まれますかね。ちょっと自信なくなってきた。この辺のジャンル認識って下らないように見えて割と本質に関わってくるものなんですよね。

最後に、僕もいち創作者なので、一番深く携わったアルバム『Farbe.』についてちょっとだけ。ほんとにちょっとだけです。なにしろ、非常に繊細なバランスの上に成立している作品(或いは、雨上がりの星の全てが孕むシャボン玉の煌めきのような虹色)ですから。僕は作詞とプロダクションデザインを手掛けました。唯一にしてこのアルバムの世界の全てを包含するボーカル曲『calm, hollow, palelights』の作詞と、ジャケットイラストなどのディレクション、タイトルロゴおよびCD盤面のデザイン、そしてプロモーション映像の監督を務めました。

これでもちょっと語り過ぎてるくらいです。やめよ。ああああさん、すとレさん、mamiさん、daphさん、yoshimoさん、そして手に取ってくださった皆様、本当にありがとうございました。音楽が好きで、創作が好きで本当に良かったです。

今年はなんというか、沢山創りましたねー。楽しかったし、嬉しかった。実は来年リリース予定の活動が既に幾つか進行しています。頑張ります。

 

さて、ハイライトとしてはこのくらいで十分じゃないですかね。以下に、僕が今年摂取した中で特に良かった音楽、アニメ、漫画などを覚書的に記しておきます。何かの参考に、よかったらどうぞ。

 

 

良かった音楽(音楽は絶対数が多過ぎてキリが無いので、特に良かったもの15個です)

 

小沢健二『彗星』

https://www.youtube.com/watch?v=YDD3KxkXjyc

 

ピノキオピー『ぜろ』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm34799315

 

・電ǂ鯨『クーネル・エンゲイザー』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm34594493

 

・田中 望(CV:赤﨑千夏)、菊池 茜(CV:戸松 遥)、鷺宮しおり(CV:豊崎愛生)『輪!Moon!dass!cry!』

https://www.youtube.com/watch?v=WvMcbMh3kI0

 

・集団行動『ザ・クレーター

https://www.youtube.com/watch?v=V3kOj2BfQgo

 

パスピエ『グラフィティー

https://www.youtube.com/watch?v=p5x3WekFoEs

 

・ENJOY MUSIC CLUB feat.平賀さち枝『HEY HEY HO』

https://www.youtube.com/watch?v=d4Qj4zy54vo

 

坂本真綾『ユーランゴブレット』

https://www.youtube.com/watch?v=-lSCmI9lP08

 

・長谷川白紙『o(__*)』

https://www.youtube.com/watch?v=TbRoIhHySWY

 

茅原実里『エイミー』

https://www.youtube.com/watch?v=7C0uci3TJmY

 

中島愛『水槽』

https://www.youtube.com/watch?v=rwjb3mTRL_4

 

・Eve『白銀』

https://www.youtube.com/watch?v=y0zLUn4UHfc

 

After the Rain『1・2・3』

https://www.youtube.com/watch?v=ajjN7eAnyZE

 

サカナクション『忘れられないの』

https://www.youtube.com/watch?v=BxqYUbNR-c0

 

sora tob sakanaflash

https://www.youtube.com/watch?v=-DNC7HDvXq8

 

 

良かったアニメ

・『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』

・『センコロール コネクト』

・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

・『海獣の子供

・『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』

・『空の青さを知る人よ』

・『きみと、波にのれたら』

・『プロメア』

・『天気の子』

(以上、アニメ映画)

・『LINEノベル イメージムービー「未来想像記」』

・『『LINEノベル』オリジナルアニメーションPV ラノベ編』

・『君に世界 - Eve 』MV

・『ミサワホーム|天気の子 コラボCM「備える・守る・支える、ミサワホーム」』

・『Shantae 5 - Studio TRIGGER Opening Animation』

・『FILMONY × ENJOY MUSIC CLUB「なつのにわ」』

・『無職転生異世界行ったら本気だす』ティザーPV

・『カップヌードルCM「HUNGRY DAYS ワンピース ビビ 篇」』

・『白銀(15秒ver.) Eve』MV

(以上、アニメPVやアニメMVなど)

・『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦』

・『モブサイコ100 II』

・『女子高生の無駄づかい』

・『続・終物語』(去年劇場で観たけど)

・『星合の空』

・『荒ぶる季節の乙女どもよ。』

・『八十亀ちゃんかんさつにっき』

・『私に天使が舞い降りた!』

・『炎炎ノ消防隊

・『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』

・『ぼくたちは勉強ができない

・『手品先輩』

・『さらざんまい』

・『バーチャルさんはみている』

 

 

良かった漫画

阿部共実『潮が舞い子が舞い』

鬼頭莫宏『バスを釣るなら』

・背川昇『海辺のキュー』

・こかむも『ぬるめた』

・土管『いのち短し善せよ乙女』

・見富拓哉『雪が降って嬉しい』

あらゐけいいち千年王国

・つくみず『シメジ シミュレーション』

小川麻衣子『てのひら創世記』

・塀『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』

枡田『むすめさんをください!!』

石黒正数『天国大魔境』

石黒正数木曜日のフルット

紙魚丸惰性67パーセント

TAGRO『別式』

桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』

平方イコルスンスペシャル』

・三島芳治『児玉まりあ文学集成』

・模造クリスタル『スペクトラルウィザード 最強の魔法をめぐる冒険』

久米田康治『スタジオパルプ』

久米田康治かくしごと

羽海野チカ3月のライオン

・久井諒子『ダンジョン飯

杉基イクラナナマル サンバツ

桜井画門亜人

あらゐけいいち『CITY』

岩明均ヒストリエ

浅野いにおデッドデッドデーモンズデデデデデストラクション

押切蓮介『狭い世界のアイデンティティー』

押切蓮介ハイスコアガール

施川ユウキ『鬱ごはん』

沙村広明波よ聞いてくれ

道満晴明『バビロンまでは何光年?』

・チョモラン『あの人の胃には僕が足りない』

吉崎観音ケロロ軍曹

小林銅蟲めしにしましょう

panpanya『グヤバノ・ホリデー』

・派手な看護婦『うわようじょつよい』

・小坂泰之『放課後ていぼう日誌』

つくしあきひとメイドインアビス

今井哲也アリスと蔵六

 

 

それでは、良いお年を。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』感想0913

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』を観てきた。

様々な勇気を振り絞って観たので、うまく言葉がまとまらない。

私情への囚われとか、あの事件に対する悲しみとか、本当に色々なものを乗り越えて観た。観たんだ。こういう気持ちを成文化するとき、どういう嚆矢が適切なんだっけ。考えがまとまらない。

 

ただひとつ、今すぐ言えるのは、私情とか事件とかは関係無しに、間違いなく今年の映画の中で一番良かった物のひとつだということ。

 

とりあえず、書き始めてみようか。

映画の冒頭を回想しながら、手を動かしてみる。そうすると、自ずと色々な言葉が、気持ちが溢れてくるものだ。

 

思うに、やはりこの物語はもともとTVシリーズではなく劇場向きだったのだと思う。
もちろんTVシリーズあっての作品だし、あれこれ言いつつも全話リアルタイムで見ていた俺だけど、まずシネマスコープがあまりにも効果的過ぎて驚いてしまった。

TVシリーズであっても映画的な撮り方にとことん腐心する山田尚子でさえ採用してこなかったシネマスコープを、この作品は採用した。
予てから石立太一山田尚子の演出には共通項があると俺は考えているが、果たしてこれが監督の藤田発案なのか、監修の石立発案なのかが語られる日は来るのだろうか。

 

物語の構成も本当に素晴らしかった。
二つの大きな山があり、前半はヴァイオレットとエイミー、後半はベネディクトとテイラーにスポットが当てられる。そして、前半の山がさながらクライマックスのように大きく聳えていながらも二つの物語は深く深く繋がっており、ラストシーンの魅力をいっそう際立たせるのだ。

というか、物語の構成こそが一番素晴らしかった点だと思う。
画面は勿論良かった。レイアウトの取り方も、線が非常に多いデザインの動かし方も、全体を通して無難ではあるが高水準で安定していた。
ただ、やはり佐藤達也木上益治が参加していない以上、どうしても瞬間最大風速では劣る。

特に良かったのが、TVシリーズでは殆ど出番が無かったベネディクトに大きくスポットが当てられたことだ。内山昂輝の演技にも一層魂が籠っていたように感じた。悠木碧によるテイラーの演技が素晴らしかったことは言うまでもない。
これらの、TVシリーズでは見られなかったキャラの活躍も踏まえ、やはりこの物語は劇場向きだと感じる。

テイラーというのは新キャラなのだが、笑ったときにジブリ作品のように歯の一本一本がはっきりと見えるデザインをしていた。シネスコに加えて、京都史上初の試みだと思われる。このデザインが完全に成功しているかと言われると回答に惑うが、結果として全体のバランスは良いのだから目を瞑ろうと思う。

 

そして、エンドロール。
茅原実里が歌う新曲『エイミー』が本当に素晴らしかった。歌唱:茅原実里と作曲:菊田大介のコンビは、今後もずっと石立太一作品に関わり続けて欲しい。

 

そう思っていたら、作監のテロップに「池田晶子」の四文字が見えた。

サポーティングスタッフのテロップに武本康弘西屋太志の名前があった。

絶対に、この気持ちを忘れないようにしようと思った。

本当に他愛もない雑記 米澤穂信,アニメ,商店街 など

なんとなく今日思い付いたこと・思い出したことをつらつらと

 

 

ここ最近は平日毎日、復職準備のために早起きして日中ずっと図書館で小説を読み耽る生活を続けている。

創作関連でまだまだやる事がある中、このルーチンはなかなかハードだ......。だいたい夕方頃に帰宅して自炊をしてから創作の作業を片付けるのだが、創作は、創るのにも摂取するのにもエネルギーが必要だ、と痛感させられる。

無論小説は好きで読んでいるし基本的に好きな作家以外読まないけど、やっぱりそれでもエネルギーは要る......ダラダラと仕事をしていた方が全然ラクだ。

 

まあ、とは言え、このルーチンのおかげで米澤穂信の著作をあらかた読み終えた。

<古典部>シリーズ以外の作品でひと際印象に残ったのは、色々あるけど一つ選ぶとしたらやはり『満願』だろうか。

米澤穂信作品の本質は、ずばり「人間の感情の機微」にある。

『満願』を読む前の自分、大雑把に言うと<古典部>シリーズ・<小市民>シリーズ・それから最新作の『本と鍵の季節』などの青春ミステリ系しか読んだことがなかった頃の自分、の主張は「例えば<古典部>シリーズのミステリ要素はそのひとつひとつのトリックの巧拙に関わらず"ガワ"の側面が強く、本体は青春群像劇であって、『クドリャフカの順番』編ばかりが評価され、ミステリ要素の薄い『あきましておめでとう』や『遠まわりする雛』が評価されないのは本質的でない」というものだったが、どうもこれは誤りを含んでいる、と今は思う。

予てから米澤穂信作品の本質は「人間の感情の機微」にある、と考えていたこと自体に変わりは無いが、おれはそれをかなり狭い範囲にしか適用していなかった。まあ要するに、ミステリ要素は"ガワ"などでは決してなかった。

結局のところ、米澤穂信が描く全ての事象は「人間の感情の機微」に起因するのだ。

本格ミステリでも、青春群像劇でも、日常の謎でも、全ての始まりは「人間同士が接触したときに生じる、この世の僅かな綻び」だ。その穴が、現実世界では大した拡がりを見せなかったり縫い合わされたりするが、フィクションの世界なら形はどうあれ何かしらの拡がりを見せる。その結果として凄惨な事件に発展したり、深い人間関係に発展したり、ただそれだけのことなのだ。

このことが分かれば、「本格ミステリ」とされており全体的に仄暗い雰囲気で構成されている『満願』は、青春ミステリに傾倒していた読者でも違和感無く読み進めることができる。

まあ、「魅力的なレギュラーキャラクターたちに依存しない短編集である」という意味での違いはあるが。

 

 

余談だが、なんとなしにラノベの棚を見ていたらアニメ『絶対少年』の横浜編のノベライズを発見した。想定を大きく上回る地場の強さだ。

そもそもこのアニメの存在を知る人はアニメファンの中でもごく少数だし、ノベライズされていることまで知っている人間となれば1000人にも満たないのではないだろうか。

あまりにも驚いたので勢いで借りてしまったが、著者が実際にアニメ本編で数話分の脚本を書いていることもあって、セリフはアニメの台本と恐らく一言一句違いが無い。だのに、セリフ以外の文章についてはアニメ本編にモノローグがほとんど無い(もしかしたら全く無い?)ため著者の解釈で補完されており、「それは監督や演出の意図と異なっているんじゃ・・・?」という部分も多分に見受けられた。

あまり完成度の高いノベライズとは言えないだろう。もっとも、『絶対少年』はやはりアニメでしか成立し得ない空気感が多くを占めている、冒険心と熱が込められた素晴らしいオリジナルアニメ作品である、ということでもあると思う。

とは言え、理絵子の家の最寄り駅が桜木町であることや希紗の家の最寄り駅が山手であることや、伊勢佐木モールという固有名詞が登場したことには少なからず驚いた。これらの情報は設定資料にはあったとしても、アニメ本編で具体的にキャラクターの口から発せられてはいないはずだ。まあ伊勢佐木モールなんかは背景美術から簡単に特定できるが、山手はそうもいかなかっただろう。思わぬ収穫だった。

 

 

自宅近くの商店街で、何故かゲスの極み乙女の『戦ってしまうよ』のショボい耳コピがBGMとしてかかっていた。

イントロからして客がビックリするだろ。しかも割と編曲ありきの曲なのに。謎チョイス

 

 

家長むぎって久野美咲とめちゃくちゃ声似てるな

 

 

以上

0612日記 人として

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(6/12 22時頃  野毛山公園前にて)

 

 

自分の気持ちが分からない。

 

会社からの帰路、大して仲が良い訳でもないけど同じ寮に住んでいる同僚たちと、夕食を買い込みにスーパーに立ち寄る。

べつにこれ自体はなんでもないことだ。いくら俺が人間的に興味が無い会社の同僚との無用な遭遇をなるたけ避けるようにしていたって、タイミング次第ではこういうことも起こる。

 

本当になんでもない、他愛も無い会話が展開される。今日しんどかったね~とか、明日の席替えの話とか、ごはん派かパスタ派かとか、ここ2か月で得た良い惣菜の知見に関する話だとか、割引きシールの話とか。

 

あれ、意外と人生ってこんなもんでいいのかな。

そうだ、あと、やっとの思いで手に入れた、プレミアがついてる創作同人誌が近々届くんだった。それが楽しみなんだっだ。俺の人生における幸福の総量を考えたら、こんなもんで十分なんじゃないか。

 

 

今、無理をする必要なんか無いんじゃないのか。

 そんなことが一瞬でも頭をよぎってしまった自分に嫌気が差す。

 

 

 というか無理をする/しない以前に、自分の気持ちすらよく分からない。他の人間の気持ちなんてもっと分からないのに。

睡眠障害だって依然として治る気配は無い。

そういう精神的弱さに、何か変化がもたらされるかも、という淡い期待、というか打算もあったんじゃなかったっけ。

それすらも、精神が弱過ぎてどうでもよくなってくる。

むしろ、ならばいっそ、目下その打算だけを行動原理とすべきなのか、とすら思えてくる。

 

 

俺はずっと、「考えることを辞めるぐらいだったら死んでた方がマシ」という理念を掲げてきたが、実際には「今後もずっと考えることを辞めない」ことはたぶんとても難しい。

今の研修を受けてる限り、配属後の仕事にやりがいなんて感じなさそうだ。まあ分かってたけど。

創作物に対する熱は未だ冷めないが、これは精神的・肉体的に一定以上元気な人々しか享受できないものなのではないか、と最近思い始めてきた。とは言え娯楽でもあるのだから、その「一定」のハードルはかなり低いはずだが、今の俺はそれさえけっこう怪しい。

そう遠くないうちに、精神も、肉体も擦り減って消え失せてしまうんじゃないか。しかもそれはだんだんと摩耗されていくものだから、自分が消え失せたことに気が付くことすらないだろう。それがただただ怖い。

 

 

妹から『最近どう?』とラインが来ている。

俺にとって妹は、家族のうち、唯一仲が良かった人間だ。

 

兄として、そして人として、返す言葉が見つからない。